2012年9月10日月曜日

爆笑文化比較論(7)「笑われる」お笑い芸人「笑わせる」Comedian


日本で面白い人への褒め言葉として「おバカ」というのがあります。日本には「おバカ」でないお笑い芸人なんぞ皆無でしょう。

この「おバカ」を最もニュアンスが近い英語に置き換えると「CRAZY」になるでしょうか。

Eels Song(ウナギの唄)from "Mighty Boosh"

この「CRAZY」という言葉を日本語でそのまま「気違い」と訳してしまうととても褒め言葉にはなりませんし、日本の公共電波では放送禁止用語ですらあります。英語社会において"He's crazy!"というのは良い意味でも(時として悪い意味でも)常軌を逸しているとか、日本語でいう「あいつチョーおバカでさぁ〜!」の近似値だったりするのです。

同じく日本の単語「バカ」をそのまま英語で"stupid, fool"といった言葉に置き換えると、やはり日本語における「気違い」と同様決して褒め言葉にはなり得ません。

これは「知性の低い人」或は「バカだけどいい奴」に対して西洋社会は日本社会ほど寛容ではないという傾向とも密接な関わりがあると思います。

例えば「男はつらいよ」の寅さんや、往年の東映任侠映画、オールド・スクールなスポ根系マンガの男主人公なんかが口論する際によく:

「てめぇ、さしずめインテリだな!」

「俺ゃ〜難しい事は判んねえが....!」

みたいな啖呵を切ったりします。こういった啖呵は日本においては「潔い」男らしさの象徴とみなされ、こういうシーンではカタルシスすら覚えますよね。

ところが英国ではこのように最初から議論する事を放棄したりするのは口論の敗北を意味します。ましてや自分の知的劣等性を認めるような言動は殆ど見られません。

そのせいか英語社会においては「理屈っぽい」という属性が日本ほどネガティヴにはとられないのです。

.......とは言っても結局英語社会においても政治やアートに関する口論とかでも結局"Your gay!"(テメ〜はオカマだ!みたいな。しかも炎上するコメ欄とかだと"You're"と"Your"(英語だと発音は同じ)が混濁しはじめる)みたいなレベルに堕ちてしまう事が多いので、とてもいずれかの知的優位性なんて感じられない時も多々ありますけどネ(笑)

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「おバカ」と「CRAZY」- この二つの単語のニュアンスの差にも両者の笑いの質や文化の差が見え隠れしています。

日本で「おバカ」を演じて笑いを誘うのは受け手に「世の中ここまでバカがいるんだな」という安心感も同時に与えてくれたりします。だからそういった事を敢えてやるサービス精神、或は自己犠牲精神が旺盛な方々に日本人は愛情を込めて「こいつバカだよな〜!」と言うのでしょう。


一方日本では自己犠牲と自己顕示欲とのブレンドで周りを引き立てていると位置づけられる「バカ」も所変わって西洋ではよほどちゃんとしたヒネリがないと冷たくあしらわれたり、時には嫌悪感さえ抱かれてしまいます。

いくら「ボケ」てもそこにあくまでも知性と批評精神がないとリスペクトを込めて「S/he's crazy!」とは言われない、つまり「言いたい事がある」100%確信犯である必要があるのです。

ゴルゴダの丘で磔になっている死刑囚が'Always look on the brighter side of life(人生の明るいところを見つめて生きて行こう!)'と合唱
Monty Python's Life of Brianより)
"Cheer up, man!"
「元気出しなよ!」
"You know what they say..."
「よく言うだろう....」

Some things in life are bad
人生は時として酷い
they can really make you mad
そりゃぁムカつく時だってある
Other things just make you swear and curse
時には悪態ついて呪ったりするさ
When you're chewing on life's gristle, don't grumble give a whistle
でもどん底の時こそ文句を言わず口笛吹こうよ
This will help things turn out for the best
そうすれば良い事があるかもしれないぜ
Always look on the bright side of life
人生の明るいところを見つめて生きていこう
Always look on the right side of life
人生のいいとことやらをを見つめて生きようじゃないか
If life seems jolly rotten, there's something you've forgotten
人生なんて下らないって思う時、何かを忘れてはいないか
And that's to laugh and smile and dance and sing
それは笑いと微笑みと踊りと詩
When you're feeling in the dumps, don't be silly, chums
落ち込んでいる時だって自暴自棄になってはダメさ
Just purse your lips and whistle, that's the thing
黙って口笛を吹く、それでいい
Always look on the bright side of life
人生の明るいところを見つめて生きていこう
And always look on the right side of life
人生のいいとことやらを見つめて生きようじゃないか
For life is quite absurd, and death's the final word
人生はこんなに不条理なのに最後は必ず死で終わる
You must always face the curtain with a bow
カーテンコールではお辞儀をしなきゃいけない
Forget about your sin, give the audience a grin
一生で犯した罪なんて忘れて観客に微笑むんだ
Enjoy it, it's your last chance anyhow...
この世で最後のチャンスなんだから楽しむしかないだろう...
So, always look on the bright side of death
だから、死の明るいところを見つめてみよう
Just before you draw your terminal breath
息を引き取る寸前まで
Life's a piece of shit and when you look at it
人生なんてクソさ、考えてみなよ
Life's a laugh and death's the joke, it's true
人生なんてお笑い、そして死はジョーク、本当だぜ
You see, it's all a show, keep them laughing as you go
いいかい、人生は舞台なんだから客を笑わせ続けるんだ
Just remember the last laugh is on you
最後に笑うのは自分だって事さえ憶えてりゃいいんだ
Always look on the bright side of life
人生の明るいところを見つめて生きていこう
And always look on the right side of life
人生のいいとことやらを見つめて生きようじゃないか
Always look on the bright side of life
人生の明るいところを見つめて生きていこう
And always look on the right side of life
人生のいいとことやらを見つめて生きようじゃないか

(訳:西川 顕)

このモンティ・パイソンのような笑いが好きな日本人も多々いる反面、特にこの手のネタを同胞日本人自身がやると「凝り過ぎ」て笑いがとれない事も多々あります。

イギリス人がやると面白がるのに日本人が全く同じ事をやると白い目で見られる、という傾向も、あくまでも自分達は世界のどの民族とも違う日本人の事を本当に理解出来るのは日本人だけ、と信じ込み、「外人」ではない「身内」が予定調和を乱す発言や行動をする事に本能的に不快感を覚える国民性から来ているのではないかと思います。

そのようにお互いの共通項を尊ぶ日本人はもっと感覚的で直接的かつ誰でも判る肌で感じる笑いを好むという傾向があります。ちょっと意地悪な言い方をすれば「世間には自分よりバカがいるんだな」と思わせてくれる笑いがお好きなようですね。

かつて世界史上最大の帝国を築き、今では悪名高き植民地経営もあくまでも「優生学上、人類で最も進化しているアングロ・サクソン人が遅れている非文明人の方々を教育し、産業革命にはじまる輝かしい英国近代文明の恩恵を享受させてあげたい」という、或る意味一神教の布教精神にも通ずる高い志(?)で行われた事。

ナチス・ドイツの功罪/功績でおおっぴらに優生学を引き合いに出すイギリス人は昨今流石にあまりいませんが、世界の人種を「教育する側」と「教育される側」に分けるとしたら自分達はあくまでも前者だという意識は英国民をはじめ西洋の皆さん多いにあると思います。

インテリ至上主義的で競争を好む(特に北ヨーロッパ系の)西洋人は笑いという本来は感覚的な行為の中にも批評性を持たせたい、右脳にも訴えかける笑いを好む傾向があります。こちらもちょっと意地悪な言い方をすれば「このネタで笑える自分は頭が良い」と思わせてくれる笑いがお好きなようですね。

総括すれば日本のお笑い芸人は「笑われる」のが仕事、イギリスのコメディアンは「笑わせる」のが仕事なのではないか、と......

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ここまでの間、なが〜い僕の駄文を読み続けて下さった方、誠にありがとうございました!そんな訳で次回は長かったこのシリーズのいよいよ最終回です!

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